「おせーぞ」 屋上の入り口で、は座って扉によりかかっていた。 朝濡れたシャツはぬいでいて、Tシャツの上にジャージを羽織っていた。 「授業中に呼び出しといてそりゃねーだろ」 オレもの隣に座る。扉は鉄製で、雨のせいでつめたく水滴もはりついていた。 制服がちょっと濡れてしまいそうだけど、まぁいいや。 「だってヒマだったんだもん」 「オレはヒマじゃなかったぜ」 「でも来てくれたじゃん」 「……」 オレはただの友達としか思われてないのに、なんで呼ばれてすぐ来てしまうんだろう。 見返しはどうでも良くて、ただオレがいっしょにいたくて。 忍足は――ほんとうに気づいてないんだろうか。の気持ちに。 肩に重みと温もりを感じて、横を見てみるとそこにはワックスでセットされた の頭があった。 肩にのった頭に、オレの頭をそっとよりかけた。 は甘えん坊だ。末っ子だからなのか、かなり。 昔は忍足にも甘えてたんだけど、彼女ができてから回数を減らすようになった。あまり 積極的では無くなった。 忍足はそれをふざけて「反抗期」と呼んでいる。 「何かあったのか」 なんとなく、の様子がいつもと違う気がした。 「跡部は好きなやついんの」 オレの質問には答えずに、はそう言った。 好きなやつ…?そりゃいるよ。目の前に。だけどそう言えるわけがない。 から恋バナをふってくるのは珍しい。嫌な予感がする。 きっといま、の心のなかを占めているのは――あいつだ。そう思うと 胃がきゅうっと痛んだ。 「…いるけど」 「えっうそ!」 「聞いといてなんだその反応は」 「ごめんごめん。だって意外だったから」 「意外?」 「うん。何か跡部って恋とかしなさそう」 「するし普通に」 「へぇー。で、誰?」 「教えるわけねぇだろ」 「言うと思った」 「…」 「…跡部にも彼女できちゃったら、オレひとりになっちゃうな」 「なんねぇよ」 「?」 「だから、なんねぇって」 「なんで?」 「なんでもだっ」 扉の向こうで、雨がざぁざぁと降る音が弱まってきた。 校舎全体の雰囲気は暗いままだけど。白い蛍光灯も、なんだか無機質でつめたい。 夏は昨日で終わったのかもしれない。今日から秋が始まるのかもしれない。 それはすごくスケールのでかいことだと思う。 オレとの関係も、いつか終わりがきて、新しく始まることがあるのだろうか。 いい始まりならいい。だけど悪い始まりなら、このままの関係でずっと変わらないまま いれたらいいのに。 「はいんのかよ」 「何が」 「好きなやつ」 「あぁー…。うん、まぁ、」 「告んないの」 自分からきいたくせに、心臓の鼓動はいっきに加速した。隣のに聞こえるくらい。 返事を待っていたら1時間目終了のチャイムが鳴った。あれ、オレたち 何十分も話してたっけ。そして少ししてから、 がやがやと廊下にでた生徒の話声が聞こえてきた。 「……告んない」 それを聞いてオレは心のなかで喜んだ。 もちろん顔や態度にはださない。クールに「そうかよ」と返事をした。 「そろそろ教室もどろ」 がオレの肩から頭をどけた。 そしてゆっくり立ち上がる。 オレの肩には、かすかだけど確かな温もりがいつまでも残っているような気がした。 060910 |