左手首から流れる鮮やかな血。 ひとはこれをリストカットと呼ぶ。 死にたいからやるわけじゃない、生を確認するために行うのだ。 あるいは愛を。 生きているという証明がほしい。 誰かに心配されて 愛されているという証明がほしい。白い肌に映える血を見ると、まだ生きているんだな って思う。安心する。 そんなことして痛くないのか、 と跡部は言った。 不思議なほどにオレは手首をいくら切っても痛みは感じない。 転んだり、どこかに ぶつけたときはちゃんと痛いと感じるのに、リスカのときだけまったく痛みを感じないのだ。 それでも、手首ではないどこかが、確実に痛みを負っている。 「また傷増えてる、」 オレの白い手首には、ピンク色の傷跡と、まだかさぶたがついたような傷が ところせましと走っている。そのうちの一番新しい傷をなぞって、跡部が言った。 「あーそれ昨日の」 「フーン」 跡部は冷たい。普通友達がリスカやってたら止めたりするじゃん。なのにコイツは 止めたり心配したり引いたりもしない。 ただの事実として受けとめる。 最近は跡部の気を惹きたいがためにやってるようなモンなのに。 「気持ちいいの、リスカって」 「気持ちいいっていうか…うーん、まぁ、気持ちいいのかな」 「この真性マゾめ」 「あはは」 オレが笑ったあと、沈黙。 ここはテニス部の部室で、オレは部員じゃないんだけど跡部の友達ってことで自由に 出入りさせてもらっている。 他のやつらは外で練習をしている。 かけ声や、ボールを打つ音が遠くで聞こえる。 跡部は黙ったままオレの傷をなぞっている。 壊れ物をあつかうように。優しいゆびさきで。 「…この傷さ、全部治るまでに何年かかるんだろうな」 ふと疑問に思ったのか、跡部はひとりごとのように言った。 「たぶん、治んないよ一生。オレは死ぬまで刻みつづけるから」 「そうか」 「うん」 跡部は何を思ったんだろう。 その手首に唇をおしつけてきた。 やさしく、 ときには軽くときには深く、 何回も何回も、キスをし続けた。 まるで、 |