春情
「お、じゃーん」 「あ、銀さん」 オレがファミレスでチョコパフェを食べていたら、銀さんが店へ入ってきた。店員の人が 「一緒に座られますか?」と笑顔できいてきたので、銀さんも笑顔で「はい」と答えた。そして、 オレの向かいに座った。 「すごくおいしそうなの食べてますね、くん」 「んーおいしーよ」 「そのおいしさ、オレにも分けてみたくならない?」 「……ほしいの?」 「うん!」 まったく子供みたいだ。オレは半分食べたチョコパフェを銀さんに差し出す。 口の中にチョコの甘い味が永遠に染み付くのではないか、ってくらい甘いパフェを。 オレも銀さんも相当な甘党。 銀さんはそれをものすごくおいしそうに食べる。うつむいた銀色の髪の毛の間に、 淡いピンク色の桜の花びらが挟まっていた。 「銀さーん、髪に桜の花びら挟まってるよ」 オレは手をのばし、その花びらをとってあげた。見た目以上に銀さんの髪は柔らかい。 「あー春だねぇ」 その花びらを見て、銀さんはしみじみとそう言った。オレもそう思ったから、 「春だなぁ」 と返した。 銀さんはオレの言葉を確かめるように何度も、「春だな」を繰り返した。ファミレスの 窓から見える桜並木は、満開だ。 「、口にチョコついてる」 「え?まじ。どこどこ」 「右。みぎ」 「右ぃ?」 「や、そっちの右じゃない。から見て、右」 「あぁこっち…」 口元に持っていった手を急にひっぱられる。視界一面に銀さんの整った顔が広がって、そのままキスされた。(キス!) 銀さんの唇は想像以上に(想像なんてしたことなんてないけど)柔らかかった。 …長い。長いから! キスなんて自慢できるほど回数をこなしていないから、オレは息継ぎが出来きなかった。 苦しい。銀さんの肩をグーでたたいた。 「…っは」 「その色っぽい目は反則だコノヤロー」 「いきなりキスするほうが反則だコノヤロー。蒸すぞ」 「(蒸すっ!?)だってそうでもしなきゃさせてくんねーじゃん」 「なんで銀さんとしなきゃなんねーんだよ」 「…怒ってる?」 「怒ってるっていうか……うん、怒ってるかもしんない」 オレたちが向かい合わせに座っているテーブルの上には、おしぼりが二つと水が二つ。 チョコパフェ。それと、さっきの花びらが置いてある。 銀さんはその花びらを親指と人差し指でつまんだ。 「でもオレ、あやまらないよ」 本当に悪びれてないように、銀さんは言った。「何言ってんだこいつ」 と思いながらも、オレは黙ってその言葉をきいた。 カラン、と空になったチョコパフェの中のスプーンが鳴り、歌舞伎町にゆっくりと 春が進んでいく。 つまんだ花びらを手のひらに乗せ、銀さんは笑った。 「だって、春だもん」 |