今オレはアパートのような『万屋銀ちゃん』とばかでかい看板がついている建物の階段をのぼっている。 階段の手すりのところどころがサビついていた。 あとで手のにおいをかぐと、鉄のにおいがした。 銀さんは歩くスピードがはやいので、ついていくのに少し疲れたけど、 銀さんにあえた妙な安心感と、小さくなってきた不安感、これからおこることに 対しての期待感がオレを元気にさせた。 「汚いけど、」 玄関の戸をあけながら銀さんが言った。 けどそれは独り言のように小さい声だったから、オレは黙ってうなずき後につづいた。 広くも狭くもない、ちょうど良い大きさの玄関。 脱ぎっぱなしの赤い小さなクツと、キチンとそろえられたぞうりが置いてある。 銀さん以外の万屋メンバーのクツだとオレはすぐに悟った。 銀さんはおもむろに黒い皮のブーツをぬぎ、 そしてオレが汚れたスニーカーをぬぎ終わるのをじーっと見ていた。 「おかえり銀ちゃん!」 「あ、おかえりなさーい」 「ただいまァ〜」 ソファに向かいあって座っている2人。ピンクの髪をした女の子が先に銀さんに気づいた。 だけどメガネの男の子は、背の高い銀さんにかくれているオレ(別に低いわけじゃないんだよ)にすぐ気づいた。 「えっと、その人は…?」 右手のひとさし指を読みかけのマンガにはさみ、メガネの男の子は言った。 この2人の名前なんだったっけ… もっとちゃんとアニメ見ときゃよかった。 「あ!『金づる』アルか!?」 「オマッそんな言葉お客さまの前で使うんじゃありません!」 「…お客様?」 「そうだよ、お客様だよ。この子」 「ちょう久々アル!今日は赤飯ネ!」 「今、お茶入れるんでっ。あの、ここ座っててください」 メガネの男の子は自分の座っていた場所を指差し、奥の方へ消えていった。 とりあえず言われたとおり座ってみる。 ぬくもりが残っていて、アニメの世界のはずなのに、 現実みたいで、なんだか妙なキモチになった。 ----------------- 「「「で、依頼というのは…」」」 ひとつのソファに窮屈につめて座っている3人がキレイに口をそろえて言う。 なんとなくそうだとは思ってたけど、ほんとに依頼少ないんだね、ここ。 きっとこの人たちはお金がもらえる、そういう依頼を期待しているんだろう。 目に「¥」が見えるもん。 期待にそぐえなくて悪いけど、こっちだってかなり困ってんだからしょーがない。 オレは大きく息をすって、いっきに言った。 「オレを、ここに置いてください」 目が点になっているとは、こういうときに使う言葉だ、きっと。 →そういうこと1 20060505 |