自慢じゃないが、あたしは普通の女の子に比べてセックスの数がべらぼうに多い。 影で「ヤリマン」だとか色々言われてるみたいだけど、事実だから別に否定はしない。 いやらしいことは悪いことではない、とあたしは思う。自分の性欲に素直なだけなのだ。 あたしはいつも、空き教室でそれを行う。 先生たちも、きっと知らない教室だと思う。だって、一度も見つかったことないもの。 それか、知ってて知らぬふりをしているか。どっちでもいい。邪魔さえしなければ。 あたしには決まったセフレが5人くらいいるが、たまに、その子たちの誰かの 紹介でくる子がいる。簡単に童貞を捨てたい子とかが。 でも、今日はいつもと違っていた。 カチャ、とドアの開く音がして振り返ってみると、そこにたっていたのはジェームズだった。 あたしの友達のリリーの、彼氏のジェームズ。あきらかに場違いなのに、彼はいつもの へらへらとした笑みを浮かべている。 なんで、え、驚いた口がふさがらない。そんなあたしをみて、彼は、 「どうかしたの?」 なんていう。いま、どうかした人がいるとするならば、それはあたしじゃなくて、 ジェームズだ。 彼がこの教室にいるのは、人魚が刺身を食べるくらい、ホモが男を好きにならない くらい、不自然で異常だ。 「……なんでここに来たの」 この場所に間違って来たなんてことは、ありえない。 でも間違いじゃないならば、ジェームズはあたしとセックスしに来たということになる。 それはそれでありえない。だってジェームズにはリリーがいるもの。 窓の外からさす夕日のせいで、教室はオレンジ色に染まっていた。ジェームズも あたしも、机もイスも黒板も、すべてをつつみこむオレンジ色に。 「が、いつもここでやっていることをしに来た」 「え、」 「いいでしょ?」 「っ、どうして」 ありえないことがおこった。 あたしの問いに、ジェームズが答えることはなかった。そのかわりに、 あたしを『いつもここでやっていること』に使うソファーの上に押し倒した。 乱暴なのは嫌いではない。Mだからむしろ好きな方だ。 でも、このとき初めて、あたしはセックスをしたくないと思い、間違っていると 思った。 視線がかっちりと合う。 ちがう。ジェームズにはリリーという恋人がいる。なのに、あたしを 押し倒してるこの男は、ただのジェームズに見える。ちがうちがうちがう。 あたしは思わず、顔を横にむけて、ジェームズのキスを拒んだ。 「友達の男に手を出すシュミなんてないわ」 このタイミングでいうのに、一番ベストな言葉がでた。 なんとなく、相手をあまり傷つけないような気がした。ほんとうはどうだかわからないけど。 ジェームズに何があったのかは知らない。 けど、何かはゼッタイあったはずだ。じゃないとこんな場所に来るはずがないもの。 「ジェームズにはリリーがいる」 「……」 「リリーにしたいって言えばいいじゃない」 「…リリーは、別だよ。そんなこと言えない」 リリーは簡単に体を許す子じゃないと思う。 それがたとえジェームズであったとしても。 でも2人の関係は体の関係を持たなくても、ずっと続いていくものだ。 あたしとジェームズをつつみこむ、あまりのオレンジ色に泣きそうになりながら そう確信した。 「言えないのは、」 「うん」 「リリーのことをほんとうに、愛してるからよ」 「……たぶん、そうだね」 ジェームズはへらへらと笑って、あたしの上から退き、教室から出て行った。 ふぅ、と安著のため息をついた自分に気づく。手は汗でびっしょりだ。 まさかジェームズに迫られるなんて思ってもいなかった。もしさっき、 あたしがジェームズを受け入れていたらどうなっていたんだろう。いや、 そんなこと、できない。できるはずがないのよ。 だって、あたしはジェームズのことを愛しているから。 |