「新八ってなんでそんなに可愛いのー!俺を殺す気か!」 「はぁ?」 くんは教室に入ってくるなり、大声でこんなことを平気で言ってしまう。 本人は恥ずかしさの カケラもないらしく、顔を真っ赤にするのは僕だけだ。そんな僕をみて 「可愛いー!だいすき!」とか容赦なしに言ってくる。あーもー僕可愛くないし! くんの方が可愛いし!じっさいくんモテるし! Z組は男子の比率が工業高校なみに高く、僕とくんは隣の席だったりする。 それに廊下側の一番うしろだからストーブの熱がぜんぜんこなくて、超さむい。たぶん外の 方があったかい。 くんは黒っぽいマフラーに顔をうずめて、冷えたピンク色の指先をあたためようと両手をあわせている。 さっき登校してきたばっかのくんは冬のにおいがする。つめたいにおい。 「これあげる」 ピンク色の指先があまりにも冷たそうだったから、僕はほっかいろを差し出した。 「え、いいの?ありがと、まじうれしー」 くんは目元をふっとほころばせて笑った。 (そういう表情を可愛いっていうんだよ) ほっかいろひとつでこんなに純粋に喜ぶなんて、なんかいいな。すごいいい。 「そーいやほっかいろって、お菓子の袋の中にはいってる『食べちゃいけないやつ』と 同じものでできてるんだってー。この前テレビでやってたさー」 そのことは知っていたけど、子供みたいな目で話すくんを見て、「そうなんだ」と答えて しまった。(なんか調子狂う……) ちょっと前に女子が「くんて志村くんにベタボレだよね」とか言ってたけど、じっさいは そうでもないことに気がついてしまう。 僕の、ほうが、たぶん…。 「俺って、98%は愛でできてんだよ」 ほっかいろをふりながらくんが言った。 「へぇ。そうなんだ、」 そうなんだしか言いようがなくて、困る。くんの指先はまだピンク色だ。 「うん、そうなんだよ」 「…あとの2%は何なの?」 「あとの2%はからっぽです」 「からっぽ?」 「うん、からっぽ。だから」 今度はほっぺたが少しピンク色にみえた。窓の外は雪がちらほらとふりはじめて、神楽ちゃんとか 桂くんは窓際につめよっていた。 「あとの2%は、新八がうめてくれなきゃな」 20060312 20060403/修正 |