お前のピアノは気味が悪い、とむかし先生に言われたことがある。 まだ小学校の低学年だったけど、その言葉で傷つくことはなかった。 だって自分でも気味が悪いと思っていたから。 ミスのひとつもない、ただ完璧なだけのピアノは自分でも嫌いだった、でもどうしようもなかった。 想像力だとか、表現力に欠けている子供だった。今もそうだけど、ピアノのおとに自分の 気持ちを込めることがで出来ないのだ。 その分、オレはテクニックに命をかけてきた。 表現力で負けるなら、せめて技術力では負けたくない。 そう自分に言い聞かせて今まで頑張ってきたのに―― 「クソッ!」 音楽室の鍵盤の模様がついた机を、思い切りける。派手な音をたてその机は倒れた。 こうすれば少しはストレス解消になるかと思ったのに、 イライラは肥大していくばかりだし、つま先は痛くなるしで、最悪だ。 なんでオレがあんな奴に負けなきゃねんねーんだよ! なんでオレが… 「あららーご乱心ですかィ?」 「…誰だおまえ」 「沖田総悟でさァ、」 「沖田…?あぁ、どっかできいたことあるかもしんない」 「これでもけっこう有名人なんですぜ、オレ」 「へぇ」 サラサラの金髪。二重の目。とりあえず誰がみても美形だと認める顔をひっさげて、 「沖田総悟」は音楽室へつかつかと入ってきた。ってここはオレの貸切なんですけど。 「オレもう帰るから、おまえもはやく帰れよ。カギかけなきゃなんないから」 「え、今日はもうピアノ弾かないんですかィ」 「今日どころかもう一生弾かないと思うけどな」 「なんでですか」 「なんでもだ」 誰かに認められないピアノなんかやってる意味がない。 つまりは技術だけじゃどーにもなんないってことに遅いながら気づいたわけだ。 音大に進学しようと思ってたけど、進路変更しなきゃなんねぇな。英語は苦手だから 文系はやめよう。…やべ、オレ数学も苦手だったんだ。 そんなとき沖田は音楽室の厚いドアを閉めながら、笑顔でこういった。 「センパイのピアノ、けっこう好きだったんだけどなァ」 20060417 |