「おいおい高杉だいじょぶか?」
の声で俺は目が覚めた。見覚えのある木目の天井。俺は白い布団 で寝かされていた。いつもより視界が狭い。なぜだろう、 と痛む腕を伸ばし目元に触れてみたら、左目には包帯(のような感触だったから、たぶん包帯だろう) が巻かれていた。




「この包帯は、とれるんだろうな」
右目で布団の横に座っているを眺めた。いまいちピントがあわなくて、それは弱々しい 目つきだったと思う。
の顔が苦しそうに(悲しそうに)、ゆがんだ。白い手で着物をぎゅっと握る。




「…そうか」
俺の頭ン中は意外に冷静で、そういう事実をあっさり認めることができた。まぁ、いい。 いや、よくはないが割り切ることしかできないのだ。俺は。
それよか割り切れないのはのほうらしく、 切れ長のきれいな目いっぱいに涙をうかべていた。
(俺のためにかなしむな)




「水、くれないか。喉がかわいた」
俺がそう言うとはすっと立ち上がり、「今もってくる」といって逃げるように部屋をあとにした。廊下をバタバタと 走る音がきこえる。












すぐにはもどってきた。盆の上に一杯水の入ったコップをのせて。目は赤くなっていた。 とってはっつけたような「平気」な顔が痛々しい。




「大丈夫?飲めるか」
よれよれと起き上がろうとする俺をみて、は言った。そんな目ぇすんじゃねーよ。




「ああ、だから、そんな心配すんな」
の手からコップをうばいとる。冷たい水で乾いていた喉がうるおって、胃がそれできゅっと なるのを感じた。








「……おれ、高杉のためなら死ねんのに」








俺はそれをきいたしゅんかん、の頬を平手でなぐっていた。「パシン!」といい音が したし、はその衝撃でたおれてしまったから、そうとう痛かったんだと思う。
の着物にひとつ、ふたつ、涙で染みができた。




「今後いっさい、そのセリフは言うな。うれしくもなんともねぇ」




赤く腫れた頬に指をのばす。焼けるような熱をもっていた。涙が一筋ながれるたびに、 俺は指でそれをすくった。なんども。
「…そのかわり」
うつむいてたがはっと顔をあげた。さらさらと黒い髪がゆれる。








「俺のためなら生きられると、胸をはって言えるようになれ」












20060313
20060403/修正前「カンパネルラ」
高杉があなたに望むたったひとつのことは、愛してもらうことでもなく、傍にいてもらうことでもなく、 ただ、生きてもらうこと。