息も瞬きも忘れてしまった恋ならば
泣きそうになるほどに、うららかな日だった、 ぽかぽかと陽気な昼下がり、オレとはふたり縁側でくつろいでいた。 お世辞にも広いといえないこの庭は、小さいなりにもよく手入れがされている。 2本の桜の木は満開で風が吹くたび、儚げに花びらが散っていく。 淡い緑色の草。日の光できらめく水たまり。そこに浮かぶ桜の花。 空は「水色の絵の具をこぼしたような」色で、ちぎれた白い雲がゆっくりと流れる──今日は、そんな日だった。 気持ちよさそうにねてやがる。 いつのまにかはオレの膝の上に頭をおいて、ねてしまっていた。 暑いとまではいかず、とても暖かい、こんなに天気のいい日だからしかたないと思うけど。 すぅすぅと胸を規則的に上下させ、オレの手をにぎって離さない。トイレに 行こうと思ったんだけど、これじゃあしょーがねぇなァ。自分の頬が無意識にあがるのを 感じた。微かな風がきもちいい。 光に照らされて茶色くなった髪に触れる。 髪は太陽の光を吸収して驚くほど熱くなっていた。 そのやわらかな髪をひとつまみ摘んで、指をはなす。ぱらぱらと一本一本キレイに落ちるのがおもしろくて、 何回もそれをやった。 「ん……」 は寝返りをうって小さく笑った。オレもつられて笑った。 この骨っぽい足のどこがそんなにいいかねぇ。 「いとしい」と、はじめて思えた最初の人間がだった。と 出会う前の人生がバカらしく思えるくらい、好きになった。 幕府のやつらを殺して、殺して、殺して、人を不幸にしてばっかりなのに、 いま、この瞬間が、とてつもなく、しあわせだ。 なんとなく、泣きそうになった。 いまこんなに「しあわせ」で本当に大丈夫なのだろうか。 しあわせすぎて怖いなんて、バカみたいなセリフだ、と思っていた。 と出会うまでは。 人を不幸にし続けるオレは最低で、それでも「しあわせ」を求めたいと思うオレは もっと最低だ。 オレは、息も瞬きも忘れてしまうような恋をした。 だけど、はオレといっしょで本当に「しあわせ」なんだろうか。これはオレの ひとりよがりなんじゃないだろうか。 がオレを嫌になる前にやめよう。 を不幸にする前にやめよう。 笑顔が消える前にやめよう。 泣かせる前にやめよう。 思い出はキレイなままで── 一陣の風がふく。の髪がゆれる。ひざが温かい。 桜の花びらかひらひらとのおでこの上に乗っかった。オレはそれを武骨な手で そっとはずした。まだきもちよさそうに寝ている。よかった。オレはそこに心からのキスを した。 オレはここにを置いて、立ち去ろうと決意した。 天気も良くて、風がよく通って、今日は本当にいい日だった。 20063020 20060403/修正 |