めざましテレビで京都の桜がどうとか言ってたけど、こっちは桜どころか吹雪だっつーの。 ほんと同じ日本とは思えない。
マフラー巻いて、コンビニへ行く途中でくんにあった。 オレに気づくなり、横断歩道の向こう側から「しーんーすーけー」と大声で手を振ってきた。 同じくマフラーを巻いている。 グレーのバーバリー柄。肩にはスポーツバックがかかっていた。信号が青になる。




「ひさしぶりー!」
「オウ」
「つーか今日寒みぃな」
「雪ふってるしな」




オレ以上にガタガタと震えてるくんの髪はぬれていた。唇が紫っぽいし。 自然と肩のスポーツバックに目がいってしまう。白のプーマだ。 こいつって何かスポーツやってたっけ…。でもくんの状態からして、 だいたいの見当はつく。




「水泳やってんの?」
「おう!」
「こんな寒みぃのに?頑張ってんのな」
「まーね、オレにはこれしかないですから」
「はっオレがいるじゃねーか」
「はっバカじゃねーの」




喋っているうちに信号が点滅しはじめた。別に気にしないけど。田舎の信号はあってないようなものだ。 そのまま横断歩道の真ん中で喋る。
なんでメールよこさねぇんだよとか、ここんとこ全然さみしくなかったのかとか、 水泳なんていつからやってたんだよとか、言いたいこと がたくさんありすぎて、何から言ったらいいのかわからない。とりあえず抱き寄せてみると、 くんは笑って、オレの頭をよしよしと撫でた。




「もう高校生なのにこんな甘えんぼでいいのかよー」
「うるせぇ」
「まぁ、そういうとこも好きだけど」




くんのマフラーに顔をうずめると、なつかしいプールの匂いがした。
好きという言葉だけでこんなにもしあわせを感じるなんて、オレはどうかしちゃったんだろう。










20060408