(トシには恋人のオレよりも、心の深くでかたくつながっている人がいる) それは、近藤さんだ。 大きな口をあけて豪快にガハハと白い歯を見せて笑う。 バカみたいに優しくて、バカみたいにいい人。 お妙さんというキレイな女の人には目がなくてストーカーばっか やってるけど、それでも近藤さんは魅力的だ。 ほんとうに。 いま近藤さんは気を失って布団に横たわっている。 そのお妙さんの婚約者と決闘をして、負けてしまったらしい。 オレは「またバカやってんな」ぐらいにしか思わなかったけど、 トシのあわてっぷりは尋常じゃなかった。 2週間前から企画してたオレとのデートをキャンセルして、 近藤さんの枕元でうろうろしてるくらい、あわてていた。 近藤さんはずっと前にも、こうやって倒れたことがあった。 ひんやりと冷たい畳の上で正座をしているオレにトシはぼそっと、 「近藤さんのためになら死ねる」 と言った。 「オレのためだったら?」 なんて怖くて聞けなくて、 ただ「そうだね」と相槌をうつしかなかった。 そのときの情景と、今がかさなる。 「トシ、」 「なに」 「…なんでもない」 トシと近藤さんが固い絆で結ばれているのは今に始まったことじゃない。 なのに看病をするトシの手が近藤さんに触れるたび、胸がキリキリと痛み出す。 不安になるだけ損なのに。 「デート、また今度にしよ。もう映画終わっちゃったし」 「ごめん、」 「別にいいって。オレより近藤さんの方が大切なんだもんなぁ、トシは」 「…」 嫌味っぽくなってしまった。少し後悔。 なんだか微妙な空気がオレとトシの間にながれる。 気まずくてオレは正座をしていた足をもぞもぞと組みなおし、 おそるおそるトシの方を見た。 トシの目にはもはや近藤さんは映ってなくて、 いかにも不機嫌そうな顔をしたオレが映っていた。 トシは少しだけ泣きそうだった。 「わかってる」 「、」 「わかってるよ」 トシが微妙な顔をしたところで、近藤さんがゆっくりと目を覚ました。 |