1時間目の理科の授業中、十四郎がうめきだした。 「やっべーやっべーやっべー」 スルーしようかと思ったけど、幼馴染だし、友達だし、なんかかわいそうだったから、 「どーかしたのー?」ときいてあげることにした。 「……佐倉さんに告っちゃった」 「おっ!ついに!」 前々から好きだっつてた隣の隣のクラスの佐倉さん。かわいくて、性格もよろし。うん。 俺はコーフンして大きな声を出してしまった。 「くーん少しうるさいぞー」 「すんませーん」 「え、なんつって告ったの?」 「ちょっ、こえでけーよ」 十四郎は顔を赤くして、ボサボサの頭をかいた。俺と十四郎は前後の席で、授業中いっつも こうやってしゃべってる。銀八先生に注意されるけど、べつに気にしないし。 「朝玄関であって、人がぜんぜんいなかったから…今だって思って、ずっと前から好きでしたって 言った…」 「そしたら何て?」 「いや、返事きく前ににげてきた」 「はぁーっ!?何やってんの!ばっかじゃねーのっ」 「くーんうるせーぞー」 「だって土方くんが悪いんです…」 「コラ土方くん、くんをたぶらかすのはやめなさい」 あと5分でチャイムがなる。はやいもんだ。 とりあえず俺は、ノートの端を小さくちぎって、そこに「次の休み時間返事ききにいけ」と それだけ書き、銀八先生が黒板の方をむくのを見計らって、すばやくその切れ端を十四郎 の机の上においた。 俺は真剣にノートをとってるふりをし、また銀八先生が黒板の方をむいたとき、 後ろからさっきの切れ端が丸められて飛んできた。 「わかった。さんきゅ」 チャイムがなる。銀八先生が「はい終わりー」と言って理科の授業は終わった。 ガタッとイスをひく音が後ろできこえ、十四郎は真剣な顔をして教室を後にしよう としていた。 俺は広い背中にむかって「がんばれよ!」と声をかけた。聞こえたのか、聞こえなかった のかわからないけど、返事はなかった。 十四郎がいなくなった教室はなんだか退屈だし、さみしい。 もしも佐倉さんと付き合うことになったら、あいつ俺のことなんてほったらかしだよ。 ゼッタイ。 がんばれなんてうそかもしれない。 騒がしい休み時間に、俺の後ろの席だけポッカリと大きな穴があいてたことは、ここだけの秘密。 (十四郎なんかフラれればいーのにな) |