これといった用事はないんだけれども、あたしは毎日かかさず銀さんに 会いに行く。
しいて言うならば、「会う」のが用事というか。
ものっそ恥ずかしい発言したけど、 好きなんです。
銀さんのことが。


「おお、今日も来たかー」
「来ちゃったー」
銀さんはソファに寝転んでジャンプを読んでいた。
そして、あたしの手元にあるケーキの箱をものほしそうに見る。
あたしがそれを渡すと銀さんはにっこりと笑った。
「いらっしゃい」


現金なヤツ。
でも、今の笑顔はかなりキた。そうとうあたしも末期だわ。
銀さんの向かいのソファに座る。
あらい木地が手のひらに触れた。


「ちょっと遅かったな」
銀さんはジャンプをテーブルの端に置いて、ケーキの箱を手馴れた手つきで 開きながら言った。
ぼんやりとその白い手をながめながら、あたしは「うん?」と返事をした。


「ウチに来る時間。いつもは3時くらいじゃん」
視線をカベにかけてある時計にうつす。
4時ちょっと前。


「あぁ、ちょっとお店忙しくて」
あたしは家のお店のお手伝いをしている。
実を言うとあたしが今日持ってきたケーキはうちのお店でつくってるやつだ。


「なに、待っててくれたの?」
そうだったらいいな、と思ってあたしは尋ねた。


「うん。まぁ一応」
予想外の返答。
銀さんはお皿とフォークを取りに台所に向かった。
うれしい。
どうしよう、どうしよう
ドキドキと心臓が鳴り、手のひらには汗がにじんできた。


「ぎ、銀さん」
「んー」


銀さんはケーキをお皿のうえにのせてあたしに差し出す。
何気ない姿が、
何気ない行動が、
何気ない、すべてが






好きで、






「・・・なんでもない」






いちばん単純な気持ちを伝えるのが、
いちばん難しい。


あたしはごまかすように、口の中へケーキをつめこんだ。












06/11/18何気ない恋の日常