あたし、こういうタバコ吸って頭悪そうな人だけは好きになるはずがないって 思ってたのに。すごい嫌悪していたのに。
なのに。
と、隣のブランコに座っている土方先輩を横目でながめながら思った。
いっしょうけんめいあたしがブランコをこいでいるなか、彼はタバコを吸い 続けている。
健康的に運動してるあたしと、不健康に喫煙する先輩。


「若いうちからタバコ吸ってるとー」
「あぁ」
「ガンになりますよー」
「知ってる」


二人はまったく逆の道を歩んでいる。
ほらだって、土方先輩なんて今年で、卒業しちゃうし。
どうにもならない焦燥感に駆り立てられる毎日。
あたしと先輩は仲良い方だけど、先輩が卒業してからも、彼の中に 残っていられるという自信はない。
それに、卒業という青春にひたることを、彼は嫌っている。
あたしだってそうだった。中学の卒業式なんて1人だけ泣かなかったもん。
土方先輩と出会って、あたしのすべてが変わった。


「大学どーすんですか」
「推薦」
「えっ、ひょっとしてもう内定もらったんですかー」
「もちろん。じゃなきゃこんなとこにいねぇよ」
「ですよねぇ。おめでとうございまーす」
「どうも」


立ちこぎにかえる。さらにいっしょうけんめいブランコをこぐ。
スカートがはためいたけど、気にしない。ジャージはいてるし。
どんどん、土方先輩は卒業にむけて遠ざかっていく。
これほど取り残されるのを恐いと思ったことはない。


も」
「はい?」
「ベンキョーだけはちゃんとしとけよ」
「はーい」


このタバコのにおいや、もくもくとあがる煙、最初は死ぬほど嫌だった。
今では、とっておきたいくらい、愛しい。
太ももが悲鳴をあげはじめた。
痛い。
明日は筋肉痛だ。
それでもあたしはこぎ続ける。先輩といた時間を記憶を焼き付けるのだ。体に。そしたら 今度また筋肉痛になるたび、今過ごしているこの時間が、確かなものになる。


「卒業するのってさみしいですかー」
「全然。むしろ嬉しいくらいだよ」
「何でですかー」
「だって高校なんてつまんねぇだろ」


あたしは楽しかったけどな。土方先輩がいて。
横目で土方先輩をながめる。
あたしが泣かないようにいっしょうけんめい頑張っているに、全然気づかないでタバコを吸っている。
好きです。


「土方先輩はー」
「ん」
「あたしのこと忘れますか」


土方先輩のくわえたタバコから、ぽたぽたと灰が落ちる。
人気のない公園。夕焼けの。
あたしの影だけが動いている。




「忘れねぇよ」




・・・忘れないでください。











06/11/24ヴィヴィッド