「すみません、副長」 の口から出た言葉は、乾燥した秋の空気を振るわせた。 まずオレは、予想だにしなかったその言葉に愕然とし、打ちのめされた。 それから平然を装って「そっか、だよなァ」とつぶやいた。笑みさえ浮かべて、 タバコを吸おうとする。 「ごめんなさい、あたし・・・」 「いや、気にしなくていいから。ほっんと全然」 オレとは、つきあってんじゃねーのって屯所内でウワサが立つくらい、 仲が良かった。 オレはのことが好きだった。 もそうだと思っていた。 両思いだと。告白したら、「あたしもそうだったんです」と言うに決まってる思っていた。 でも違った。すべてはオレの思い込みでしかなかったんだ。 かちっかちっかちっ。ライターの火がつかない。 秋風がオレたちの間を通る。 「オレ、先にもどってるから」 「・・・はい」 がオレのことを恋愛対象として見てなかったと思うと、男らしくないけど、 泣きたくなる。チクショー、まじでやばい。 調子にのった自分への後悔と、裏切られたという理不尽な思い。 バカじゃねーの、まじで。 かちっかちっ 震えた手でいっしょうけんめいライターの火をつけようとする。 「うそです」と、が走って追いかけてくるのを期待しながら、 わざとゆっくり歩く自分が恥ずかしい。 まだどこかでこれは違う、と思っている自分が恥ずかしい。 かちっかちっかちっ ついに、ライターの火がつくことはなくて。 06/11/12行き場のないタバコ |