限りなく黒にちかい紺色の空には、限りなく白にちかい黄色の月があって 満月だろうと三日月だとうろ上弦の月だろうと、月は 形を変えながらいつもあたしたちを照らしてくれた。 今となっては過去の話だけどね。 あと、もうひとつだけ、過去の話にするものがある。 それは、あたしが真選組の隊士だったということ 肩には大きなかばん。隊服はきれいにたたんで置いてきた。 未練はないし後悔もない、振り向くこともしない。 目の前にはおおきな正門。 なんだかおかしな気もちになる。入隊したての頃、この門はとても 輝いて正義の象徴のように見えたのに。 あれから5年間で変わったのはこの門ではなくて、あたし自身だ。 「こんな時間にどこ行くんだよ」 二、三歩足を進めたところで後ろから声をかけられた。 凛とした低い声。入隊してからずっと憧れてた人のものだった。 なんでよりによって土方さんなんだ、 あたしはほんの少しだけ泣きそうになりながら、冷たい空気を肺いっぱい に吸った。 「コンビニです」 「夜中の3時にか」 「はい」 「・・・その荷物で?」 「はい」 「オイオイ、どこのコンビニまで行く気だ」 風にのってタバコのにおいが漂ってくる。 (土方さんだ土方さんだ土方さんだ土方さんだ) 振り向かないと決めたはずなのに、なつかしい香りに誘われて いつの間にかあたしは振り向いていた。 白すぎる蛍光灯に照らされた屯所と、土方さん。 土方さんは右手に挟んでいたタバコを捨て、くつの底で地面にこすりつけた。 自由になった右手は、そのまま刀の柄を握る。 「あたしを斬るんですか」 「お前以外に誰がいる。裏切り者は殺さなきゃいけねェ、そういう決まりだ。」 「見逃してくださいよ、土方さん」 「できねぇな」 「土方さん、あたし、」 知っちゃったんですよ 月明かりはもう2度と届かないということを 今、あたしたちを照らしているのは、わざとらしい蛍光灯だということを そして月を殺したのはまぎれもないあたしたちなんです 土方さん。知ってますか? 「問答無用」 そう言葉を吐き捨て、ついに土方さんは棹から刀をぬいた。 逃げられない、あたしは確信した。 一歩一歩距離が縮まるたびに濃くなるタバコのにおい。 蛍光灯を反射して、刀が鋭く光る。 土方さん、あなたに斬られることが本望だと思えるほど、あたしは 大人じゃないんです。 「今夜は月がきれいだな」 刀はあたしの首の横に置かれ、いつでも殺す準備はできているように思えた。 土方さんは空を見上げつぶやいた。 そうですね、と言おうとしたけど、恐怖で声が出てこない。 もたもたしてる間に視線はあたしの方へと向けられた。 「、知ってるか?」 「月は太陽に照らされてるんだぜ」 07/01/10(求めたのは月明かり) |