「あー、寒みィ」


手と手をこすり合わせながら独り言をつぶやいた。
冬絶頂もいいところの1月。
隊士はおろか女中すら起きていない、早朝の屯所。
コタツの中に入りどんなに厚着をしても鼻のてっぺんだけは凍るくらい冷たくて、
ほの暗い部屋の中には白い息が、ひとつ。
朝は得意な方じゃないから、まぶたが眠気に耐えきれずにぼんやりと開閉をくりかえす。 やっぱコタツは最高、コタツは。




「わたし、コタツないと生きていけません」
「おれもおれも」





そう相槌をうったのは、ちょうど去年の今頃。
おれは早朝の見廻りをサボり、は女中の仕事をサボってぬくぬくと コタツの中にいた。お互い上司にそのたび怒られて、それでも懲りずに 何度でもサボってやった。
楽しかったのだ、
眠い目をこすりながらとするくだらない会話が。
おれはバカだから、具体的にどんな会話をしたか全然覚えてないし、思い出そうとしても 手で水をすくうようにすき間から全部もれてしまう。
ゆいいつ覚えているのは、さっきの、だけ。




「楽しかった、んだよなァ」




テメェらつきあってんのか、と土方さんに聞かれたことがある。
そのときは笑いとばしてしまったけど、こう思わずにはいられない。


もし、おれたちがつきあっていたら、を繋ぎとめることはできたんだろうか。
もし――あのとき、おれがこの気持ちに気づいていたのなら。


過ぎたことをいつまでも後悔したって、何も良いことはない。やるせなさに絶望 するだけだ。わかってる。
「ちくしょう」
後の祭り。覆水盆に返らず。
ただ、がいない時間を生きるという疲労がこんなにも重くおれを沈めるなんて


思いもしなかったんだ。




今日も見廻りをサボろう、そう決めておれはコタツのうえに頭をのせた。
ほの暗かった部屋に光が差し込む。ばたばた、と屯所の人たちが活動をはじめる 音が聞こえる。






「わたし、コタツないと生きていけません」
「おれもおれも」











「コタツあるんだから戻ってきなせェ・・・」




白い息が無意味にひとつ広がって、またひとつ消えてゆく。














07/01/08(君がいた冬、いない冬)