どこできいたんだっけ。 そうだ、あのアニメだ。 「銀魂」とかいうアニメの、主人公の声にとてもよく似ている。 そのアニメの主人公の名前って何だったっけ…? たしか、 「ぎ、銀さん?」 「おうそうだ、少年」 え! ホ、ホンモノかよ! 頭をポリポリとかきながらこっちへやってくる。 白に限りなく近い銀の天パ。くずした着物の下には黒い半そでの シャツをきている。そして黒いズボンに、ブーツ。 腰には「洞爺湖」とかいた木刀。 どこか普通の人とは違う、独特の空気を持っている。 間違いない、この人は、アニメで見た「銀さん」だ。 「あの、銀さんですよね?万屋の」 もう一回確認してみる。 「?あぁそうだよ」 やっぱりそうみたいだ。 「何、この人キミの知り合いなの?」 ホモの男に耳元で嘆かれた。 そうだった。 オレは今、このホモにラブホに連れ込まれそうになってる真っ最中だった。 「銀さん!助けて!」 「…ったくしょーがねぇなァ」 「うわっ!?」 次のしゅんかん、オレの体がひょいと浮いた。 そしてお腹に少しの衝撃を感じた。どうやらオレは銀さんの肩に担がれているらしい。 「しっかりつかまっとけ」 そういうと銀さんは人ひとり担いでるとは思えないくらいのはやさで、走りだした。 ふりおとされないように、あわてて銀さんの着物をにぎる。 ホモがだんだん小さくなっていって、ラブホ街からもあっという間に遠ざかった。 担がれているあいだ、ずっと考えてた。 オレが今体験しているのは、何なんだろう、と。 「銀さん」という人物と、それにマッチする街の風景から、 冷静になおかつ熱く高速回転するオレの脳は、 恐ろしくファンタジックな答えにいきついてしまった。 それは、 『異世界トリップ』をしているのではないかということ。 そこ!鼻で「ハンッ」って笑わないで! だってこの状況、誰かどう考えても、それだと思うよ。 「ここまで来たら大丈夫だろ」 銀さんはゆっくりとオレを地面へ下ろす。 「ありがとう!銀さん!ほんとオレ助かったよ…」 「お前なぁ、あーゆーやつにホイホイついていくなっての」 「…今度から気をつけるよ」 「じゃ、オレはここで……」 「ちょっとまって!」 思わず呼び止めてしまった。 そんな、置いてくなよ。 こちとら『異世界トリップ(たぶん)』したばっかで、何もわかんないし、 帰る家もない。 「何?」 銀さんが不思議そうにのぞきこみながら言った。 「…依頼が、あります」 声は、なぜか堂々としていた。 仕事が見つかってうれしいのか、銀さんはニカっと白い歯を見せて笑う。 そして「ついてきて」と言い、すっかり暗くなった道の蛍光灯の下を歩きはじめた。 これからオレはどうなるんだろう。 ひとまずその広い背中にオレの未来をゆだねることにした。 →5 20060505 |