「銀さーん、あがったよー」


銀さんのTシャツは少し大きい。ジャージも。
銀さんはソファーの上であぐらをかいていて、 右手にはコーラ左手には柿のたねを握っている。
オヤジみてぇ、と思ったのはナイショで。


「おう、コーラ飲むか?」
「飲むー」


テーブルの上にそれらをことんとおき、よっこらせと言いながら銀さんは 立ち上がった。
何か気を使わせてばっかで悪いなと思ったから、「ごめん」と呟くと 「何が?」と笑われた。つられてオレも笑う。


「銀さーん、テレビみてもいい?」
「ああリモコンそこらへんにあるからー」


台所にいる銀さんの声は少し大きかった。
そこらへんって…オレの家だったらテーブルの上に必ずおいてあったんだけど、 この家はおいていない。どこだよ。探すのがめんどくさくなったから、 オレはソファーから立ち上がってテレビの電源を入れた。テレビの 表面に静電気が通る音がした。
ニュース番組。
着物をきた知的美人なアナウンサーは神妙な面持ちだ。
そして、ぱぱっと画面に文字が表示される。よかったちゃんと現代の日本語だ。 古典でならうような「候ふ」とか「てふてふ」とかそんなんじゃなくて、よかった。


「また謎の攘夷志士か、20代の女性死亡」


後ろから声が聞こえたので振り返ってみると、銀さんが右手にコーラの 入ったコップをもっていた。ずいっと差し出す。ありがと。なみなみと注がれて いたのでこぼれそうだった。


「今日午後4時すぎ渋谷区の大型スーパーの駐車場で、22歳の女性が 何者かにナイフでさされまもなく死亡しました。20代の女性が何者かに 殺害される事件がここ最近14件おきていることから―――」


殺人とか、こっちの世界でもあるんだ。
画面がその大型スーパーの駐車場の画像にかわる。警察の黄色いテープが 現場のまわりに巻かれていた。赤いサイレン。がやがやと群がる人々。


「最近多いんだよなァ、こういう事件」
銀さんがいった。オレは、そうなんだ、といいコーラを一口飲んだ。



















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20060621