オレは今、銀さんのおさがりの服を着て街を歩いている。 マンガでいつも着ている服ではなくて(それはオレが拒否った)もっとまともなの。 黒の帯に、紺色の着物。そんなカッコだからオレはものすごく街にとけこんでいる。 まるで元からいた人間のように。妙な安心感がある。 なぜオレが学校の制服を着ていないのか、というとこんなことがあったからだ―― 「ちょ、まて。お前そのカッコで行くっていうんじゃないだろうな?」 お金をもらって玄関に向かおうとしたオレを 見て、銀さんはたずねた。 オレもいつも着慣れて見慣れている制服を見てみるが、何もおかしいところはない。 やりすぎない程度にくずしてあるネクタイに、第二ボタンまで開いたうすい青色のYシャツ。紺色のブレザーと、 同じ色のズボン。けっこう人気あんだけどなこの制服。 「え?そのつもりだけど……どっか変?」 「変つーか何つーか、」 口ごもる。え、なにはっきり言ってくんないとわかんないよオレ。 そう文句を言うと銀さんは口をひらいた。 「……ぶっちゃけ、男誘ってるよーな感じにみえる」 「―――はっ?」 「だからそのカッコやめた方がいい、って」 どうやらそういうことらしい。この世界の人にとっては洋服は位の高い人たちが 着るもので、そんな服を着崩しているのは、そういう意味にとらえられる、と。 まるで花魁のようだと―― こんなことがあったから、オレは着物を着ている。 なぜそういう意味にとらえるか疑問だったけど、またホモにからまれるのは ごめんだと思った。 制服を脱いで着物を着るのは、 オレの元いた世界との関係がうすれる気がして、ちょっとだけ不安だった。 ちょっとだけ。 →5 20060721 |